Earwitness(耳撃)の記憶に基づく報告や識別の正確さを実験心理学的手法により検討した。基本的計画は耳撃が起こる出来事を変数にして、ネガティブな情動的覚醒を経験した場合に、その耳撃の報告や話者の識別が、そのような情動的確性を経験しない場合に比較して、どのような結果を生むのかを検討することを第1の目的とした。この研究は、恐怖を喚起するビデオ鑑賞下と中性的な感情喚起のアニメを鑑賞下でかかってくる電話の話者の声を一週間後に識別するという課題で行った。結果は、情動的出来事を経験した場合には、これを経験しなかった出来事に比較して、識別に対して比較的強い情動効果による識別成績の低下を観察した。しかしながら、全体の識別の成績が低いために、統計的検定にはかからないものの、情動条件では5/42という成績であり、中立的な出来事条件では12/45という成績であった。つまり、情動的喚起がない条件ではある条件に比較してほぼ2倍以上のヒット率であった。この結果は2013年6月開催のロッテルダムで開催されるSARMA大会での発表に採択された。 第2の目的は、耳撃の対象となる人物の数を1人、2人、3人と増加させた場合の、識別への効果を検討するものであった。この実験は耳撃の対象となる人物の数を統制し、さらに識別におけるラインナップの条件をそれぞれ1回の識別あたりに一人のターゲット人物を入れてのものであったが、実験参加者がそれぞれ一人入っているということがわからないというかたちの計画であったので、3回識別を行う必要があった。しかし、参加者は自由に識別ができるために、それぞれの識別試行で3人を選んだり、選ばなかったりと、研究計画にそわない結果となった。これは、耳撃の対象者の声の類似性問題であり、この統制が極めて難しいことが明らかになった。耳劇研究の研究が少ない理由にこの声刺激の問題がかかわっている。
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