本研究は、近年、認知心理学的記憶研究において特に重要視されているメタ記憶に関連して、個人がどのように自らの記憶能力や記憶特性、知識状態をとらえ、能動的な記憶活動の展開にいかに生かしているのかを実験心理学的方法を用いて実証的に明らかにし、こうした記憶のモニタリングとコントロールを認知心理学的に評価しようとするものである。個人(一般成人)から記憶モニタリングの正確性と記憶コントロールの効果性に関する実験室データと日常記憶データの両方を収集することによって、今後、これまでのメタ記憶に関する実験室研究の成果と日常記憶研究の成果を包括的に議論することが可能になると考えられた。 一般成人(大学生)122名が本研究に参加協力した。これらの研究参加者に対して同一の個人から記憶とメタ記憶に関する実験、メタ記憶質問紙調査、及び個別式記憶検査を実施し、記憶モニタリングの正確性と記憶コントロールの効果性に関する基準的なデータを収集した。これらの実験・調査・検査に関する個々の指標の度数分布及び指標間の関係を捉えようとした。 研究の結果、主として以下の知見が得られた。(a)記憶実験(自由再生課題)において実験参加者に直後再生の後に最終再生での再生項目数の予測を求めたところ、最終再生予測は再生試行の経過に従って過大予測から過小予測へと変化していった。(b)自由再生課題における「最終再生成績-最終再生予測」と、メタ記憶質問紙及び時間的展望質問紙の因子ごとの平均評定値との関連性を調べると、いずれも相関関係は認められなかった。(c)自由再生課題における「最終再生成績-最終再生予測」の値をもとに全実験参加者を記憶実験における過大予測群、適正予測群、過小予測群の3群に振り分けて、各群の記憶検査の結果を比較すると、ほとんどの指標得点において、過大予測群のほうが過小予測群よりも検査課題成績が低かった。
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