本年度は、定位行動中の意思決定に関与する上丘内の局所回路の働きを特定することを目的とした。 まず、意思決定を伴う定位行動課題を訓練したラットの上丘破壊による課題成績への影響を、破壊領域を上丘後方部に限局して調べた(それまでは前方部と後方部を同時に破壊していた)。具体的には、視覚弁別に基づく左右レバー選択課題を学習したラットの上丘後方部を一側性に破壊し、課題の正答率と反応潜時を破壊前後で比較した。課題学習後に予め埋め込んでいた電極を通じて微小電気刺激を行い誘発される行動を記述した後、同じ電極に直流通電を行うことで熱損傷を作成した。破壊の前後の課題遂行セッションで、正答率や反応時間などを比較した結果、難易度の低い課題条件では損傷後、成績は一時的に低下したもののその影響は数日以内に回復することが観察された。しかしながら、難易度が高い課題条件では損傷後、損傷と対側側の成績が大きく低下し、数週間の訓練を経ても完全に回復することはなかった(前方および後方の同時破壊とほぼ同様の結果)。反応時間については損傷前後で大きな差は観察されなかった(前方および後方部の同時破壊によっては反応時間が短縮される傾向があった)。行動実験後の組織解析では、損傷を作成したすべての個体で上丘の一側後方部が局所的に破壊されている事が確認された。これらの結果から、難易度の高い課題での成績低下は主に上丘後方部の働きであることが明らかとなった。 また、このような意思決定課題の学習に関わると予想される上丘内フィードバック回路の存在と特性について検討した。具体的には、上丘層間の経路の存在を明らかにするため、上丘前額面のスライス標本を用い電位イメージングを行った。その結果、上丘中間層への刺激が浅層へと伝搬することが観察された。
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