研究概要 |
「読み」における読解,つまり文字からその語の意味を計算する過程には,文字表象から直接その意味表象を計算する過程と,文字表象からその語の音韻表象を経由して意味表象を計算する過程があり,両計算過程の寄与は用いられる表記により異なることが予想される.本研究では,日本語における漢字語と仮名語の読解における両計算過程の役割分担に関し,健常成人と認知症例を対象とする実験的アプローチと,コネクショニスト・モデルを用いたモデル論的アプローチにより検討することを目的とする.22年度は,1)シミュレーション研究における意味表象の表現法の検討,2)文字から意味への直接計算過程のシミュレーション,および,3)認知症例の意味機能を測定する検査に関する妥当性の検証を行った. その結果,1)シミュレーションに用いる意味表象には,十数万語の一般名詞を2~3,000の意味特徴に分類した語彙データベース(NTTコミュニケーション科学研究所,1997)を用いた分散表現が適切であること,2)ビットマップで表現した文字表象から上記意味表象への直接計算過程のシミュレーションでは,漢字の方が仮名より計算効率は高いものの,文字と意味の対応に関する一貫性(Hino et al., in press)の効果は認められなかった.来年度は人間の読みのデータを収集し,本シミュレーション結果と比較するとともに,音韻表象を経由した意味表象の計算過程を検討していく.また,3)意味機能を測定する検査を健常高齢者に実施しコントロール・データを収集した結果,いくつかの検査項目に不備のあることが明らかとなったため,早急に改訂作業を進める予定である.
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