研究概要 |
「読み」における読解,つまり文字からその語の意味を計算する過程には,文字表象から直接その意味表象を計算する過程と,文字表象からその語の音韻表象を経由して意味表象を計算する過程があり,両計算過程の寄与は用いられる表記により異なることが予想される.本研究では,日本語における漢字語と仮名語の読解における両計算過程の役割分担に関し,健常成人と認知症例を対象とする実験的アプローチと,コネクショニスト・モデルを用いたモデル論的アプローチにより検討することを目的とする.23年度は,1)文字から意味への直接計算過程のシミュレーションの再検討,および,2)認知症例の意味機能を測定する検査の改訂作業を行った. 【結果】 1)ビットマップで表現した文字表象から約2,000の特徴で表現された意味表象への直接計算過程のシミュレーションでは,漢字の方が仮名より計算効率は高いものの,文字と意味の対応に関する一貫性(Hino et al.,2011)の効果は認められなかった.しかも,Hinoらが算出した各学習単語における文字と意味との一貫性値と,本シミュレーションで得られた当該単語に対する反応時間との間に,有意な相関は認められなかった.本結果は,シミュレーション・モデルで認められた漢字語における計算効率の優位性が,文字と意味との一貫性に起因していない可能性を示唆する。 2)昨年度の意味機能を測定する検査において得点の低かった項目を入れ替え,同一の健常高齢者を対象に新しい刺激セットを実施した結果,入れ替えた刺激にほぼ正解でき,検査全体として天井効果を示す検査が出来上がった.一方,本検査を意味認知症例に実施した場合には,重症度に応じて得点が低下することから,本検査は意味障害を検出し,その障害の程度を測定する検査として概ね妥当であることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成22,23年度に,文字から意味を直接計算する過程(文字→意味)に注力し過ぎたため,文字から音韻を介して意味を計算する過程(文字→音韻→意味)をコンピュータに上に実装するには至らなかった.また,意味障害の程度を測定する検査の作成に手間取ったため,アルツハイマー型認知症や意味認知症の症例データの収集が遅れてしまった.
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