研究概要 |
読解とは,文字を入力とし意味を出力とする計算過程であり,その計算には,文字表象から直接その語の意味表象を計算する過程(orth→sem)と,文字表象からその語の音韻表象を計算した後,そこから語の意味表象を計算する過程(orth→phon→sem)がある.本研究では,意味の計算における両過程の役割分担に注目し,人工的ニューラル・ネットワークを用いたシミュレーション実験を行った.日本語の音読と読解を学習したモデルにおいて,orth→semとorth→phon→semの各処理過程を孤立させて意味を計算し,両処理過程の寄与を漢字と仮名の表記別に検討した.その結果,漢字語全般における両処理の寄与率に差は認められなかったが,orth→semの一貫性が高い漢字語の意味計算では,直接計算過程の寄与が高かった.一方,仮名語では,音韻媒介過程の寄与が高かった.本結果は,日本語の読解における意味の計算過程の役割分担が,表記によって異なる可能性を示唆する.
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