西欧から輸入された心理学が、実践的教育方法学として教育心理学固有の研究領域を確立していく過程を、東アジア諸国との多文化共生を視野に入れた日本の近代化の歴史・文化と国内及び東アジアにおける日本の学校・教育制度の普及・整備と関わらせて明らかにすることを目的にした。今年度は、日本国内の教育令、高等教育・師範教育における教育心理学の教科目の設置と位置づけに焦点を当て、高等師範、高等女子師範、旧帝国大学、及び私立大学の教育心理学導入の過程を分析した。第二次世界大戦で日本がアジア大陸に進出する時、朝鮮半島は重要な拠点であった。半島における教育は重視され、朝鮮人の日本語教員の養成も行った。教育の内容は、日本の教育令に習って、朝鮮教育令がしかれた。日本人児童と朝鮮人児童の融和は大きな課題であり、教師の配置には細心の注意を払った。一方で、日本人児童の優秀性は、日本の支配的優位を保つ意味で明確にされねばならなかった。知能研究は、心理学が日本に輸入されまもなく盛んになったが、教育心理学固有の領域は確立されていなかった。欧米に伍する日本にするためには、教育立国が欠かせなかった。帝国大学の教育課程では、心理学は最初期から取り入れられたが、「教育の心理学」にはなっていない。教育に関わる心理学は、欧米列強に対する日本国民の教育が強く意識され、師範教育が制度的に整えられていく過程と関わる。現在、帝国大学と私立大学における心理学導入の変遷と教育心理学の発展の過程を整理している。また、朝鮮半島における教師養成の実態と教育課程を検討している。文部省関係の動向の分析では、大正期から第二次世界大戦中の文部時報等の収集を行い、分析の準備を進めた。平成22年度は、韓国のソウル大学において京城大学ならびに京城師範大学に関する資料の発掘調査と収集を行う予定であったが、先方の都合等のため、中国・天津の南開大学での調査を行った。
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