本研究が目指す「協同的な学びづくり」においては、グループ活動を通し、開かれた個として他者と切磋琢磨しつつ協同の精神を培い、学習の効果を相乗的に高めることのできる指導力が問われることとなる。授業診断指標の開発は、この授業者の指導力の水準を的確に評価し、技法改善に生かせるようにするためである。本年度の研究では、協同学習の先行研究や授業観察評価の事例(「効果的なグループ活動プロジェクト」「グループ課題やグループへの対処法を観察するプロジェクト」等)をレビューし、グループ活動を効果的にする教師の手続きや技法について、同僚による診断・評価に有効な授業観察の視点を摘出した。これは、質問項目ごとに定量評価するための授業観察シートの指標としても活用できるものである。他方、グループ学習は形式的実施に陥りやすいという課題を抱えており、児童生徒の自律的参加は社会コンピテンシーの定着度にも左右される。そのため、授業者の指導・支援の力量は、この能力形成も視野に入れておく必要がある。OECDのDeSeCoプロジェクトが示したキー・コンピテンシーでは、「異質な集団で交流する」が能力枠として設定されたが、グループ学習(協同学習)の質を問う授業診断指標の開発においても、それが内包する能力要素は関心事となる。2008年4月、EUは「欧州における生涯学習のための資格認定の枠組(EQF)」を発効し、欧州各国においてもこの枠組に従い、新たな能力指標の策定を進めている。EUとドイツの能力指標を比較し、社会コンピテンシーがどのような能力要素を内包しているのかについても明らかにした。このことを通し、欧州における新たなキー・コンピテンシー構築の行方を探り、「協同的な学びづくり」を通して育成する力の考察材料とした。
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