近世後期は、各地の名所を巡りながら伊勢に参宮する旅が民衆のあいだに普及したといわれる。この背景には、街道や旅宿などの物理的な諸条件の整備もさることながら、旅を計画し遂行するための知識や教養、計算能力、コミュニケーション能力が民衆のなかに定着していたことがあったと考えられる。そこで、人びとの教養のありかたや旅の学習効果を分析することを目的に、旅日記の収集を進めた。従来の近世旅研究は主として東日本出発の旅日記を使用し、西日本出発の旅日記はほとんど発掘されていない。そこで、本研究では、西日本出発の上京・伊勢参詣の旅日記を渉猟することを目指している。本年度は以下の西日本各地の図書館・文書館におもむき、一次史料としての、あるいは自治体史などの刊行物に掲載された西日本出発の上京・伊勢参詣の旅日記の調査をおこない、それらを複写あるいは写真撮影して収集した。 福岡県立図書館郷土資料室・・・刊行物を含む20点。 長崎県立歴史文化博物館資料室・・・旅日記3点。 佐賀県立図書館郷土資料室・・・自治体史に掲載された旅日記2点。 広島県立文書館・・・江戸行きの旅日記を含む4点 山口県立文書館・・・九州行きの旅日記を含む10点。 香川県立文書館・・・刊行物を含む10点。 特に神職は京都の本所に赴きその記録を後世に伝える必要があり、詳細な上京日記を残す場合があった。そうした意味で、広島県山県郡井上家に残された神職の上京日記(文化3年・文政13年・天保13年・弘化5年・嘉永元年)は特筆に値する詳細な記録である。史料調査のうえ、その翻刻作業およびデータ入力をおこなった。これは最終年度に作成する報告書に全文を掲載する予定である。
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