本年度は「近代日本における農本的地域教育実践に関する調査研究」をテーマとする科研補助研究の最終年度である。当面の研究内容を纏めることを目標にして、残された対象地域を調査した。東井義雄関係の資料調査のため、兵庫県豊岡市・養父市へ2013年7月に出張して、東井義雄記念館および東井義雄の生家にて聞き取り及び資料調査を行なった。補助調査として芦屋市在住の元教員千葉孝子氏にインタビューし、関連資料を譲り受けた。2014年2月には岐阜県中津川市に出張して、恵那教育研究所において地域に根ざす教育の歴史的展開過程に関する資料を収集した。同3月には長野県長野市のにおいて長野県立図書館において、農本的地域教育実践の事例として昭和初期の同県の実業補習学校およ農村私塾の関連資料を調査・収集した。以上の資料は、科研補助金にて作成した冊子に収載した。 これとは別に、前年度までに調査した、奄美・沖縄地域を対象とした資料をもとに、論文「戦後初期奄美地域における新制高等学校創設に関する一考察――青年学校の町村立実業高等学校への改革に着目して――」を作成し『中等教育史研究』第21号(2014.5)に投稿した。また、以前調査した秋田県由利本荘市西目町の資料をもとに「戦前昭和期の地域計画と教育自治に関する一考察(1)――――秋田県由利郡西目村の事例―――」「同(2)」を作成して『芦屋大学論叢』第60号(2014.1)61号(2014.7)に投稿・掲載した。 当該調査研究では仮説的・暫定的ではあるが、結論として以下のことがいえると考えた。農本的地域教育実践には、全体として地域や農民の人間形成要求とは相対的に無関係に国家によって主宰されてきた近代公教育への批判、農村共同体の伝統的な自己形成の営みの活性化、地域独自の理念・内容・制度を持つ地域教育の構築の志向を内在させており、近代日本の地域教育自治の一つの試みであった。
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