研究課題
本研究1年目の平成23年度は、新教育思想の限界と主要因を確認・考察するため、これまでのナン(Percy Nunn)の著作(On Education)における教育行為に関する言説(discourses)及び教師の「行為コード(code of conduct)」の三カテゴリーから、授業論と教育評価論を抽出する作業を進めた。また、その抽出作業の過程で、外国の研究協力者(Prof.Richard Aldrich、Dr.Peter Cunningham、Prof.Roy Lowe、Mr.Gary Foskett)と研究会議を開催し、仮説へのアプローチの見通しの妥当性について意見交換した。その結果、以下の点が明らかになった。1. イギリス新教育運動家らは19世紀末以来、教育における自由を標榜し、「生の理想」を個性の伸展として掲げていたが、授業論についてはその枠組みとして「遊び」論の意義を展開し、具体的な教育評価論についてはバート(Cyril Burt)の研究成果への着目の意義を指摘するに留まっていることが解明できた。2. しかし、1925年代以降になると試験やIQテストに関する議論を展開していることが、新教育連盟(New Education Fellowship)の季刊誌『新世界(The New Era)』の特集(Examinations or? Can Intelligence Tests replace Examinations?)に投稿された論文群から明らかになった。3. 以上のことから、イギリス新教育運動期の自由の標榜は子どもの全体性の発達やそのための人格の統合性を強調し、手工芸、遊びなど3R'sの偏重を克服する学習内容の導入につながったが、逆説的にも、個性や人格など、数値化し難いものに重きをおく指導内容に対する信頼性の拠り所をIQという指標に求めたのではないか、という問いが出てきた。4. また、IQテストの普及に『新世界(The New Era)』がメディアとしての役割を果たしたこと、また同時にナンの教育学者としての功績もポリティクスの観点から捉え直す意義があることが再確認できた。
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『教育学研究論集』(武庫川女子大学大学院文学研究科教育学専攻)
巻: 第6号 ページ: 83-91
History of Education (History of Education Society in UK)
巻: Vol.38, No.6 ページ: 1-14
関西教育学会年報
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