平成24年度は、国民学校令期(1941~1945年)を対象に、第一に、朝鮮総督府教育関係者や内地教育関係者の「国語認識」解明のために、朝鮮総督府発行の報告書、現地雑誌記事、内地教育雑誌の関連記事などを収集・分析した。当時は、大東亜戦時下にあり戦時体制強化を背景に、「国語は国民の精神的血液」という国語認識の一方で、異語民族である朝鮮人に大東亜共栄圏の「国家語」として国語を教育するという論理が生み出されていた。 教育面では、「内地」と「外地」(即ち朝鮮)の区別なく、皇国の道に則って児童の基礎的練成をする国民学校制が実施され、教科書の大部分が国定とされた。国語科は修身科等とともに「国民科」に統合され、両科は密接に関連していた。国語科では、初めて教師用書が編纂され、国語の音声面が重視され、国語科教科書用の練習書も編纂されたことが従来との大きな差異である。 第二に、「国語科」が担った役割解明のために、1941年度より使用された「国民科国語」教科書の編纂趣意及び教材を分析した。その結果、第一・二学年では、満州・支那に目を向けさせ、軍隊や日の丸を意識させ、国の為に働くことや先祖崇拝、天皇への忠義心を扱った題材等により、児童に国体の尊厳に目覚めさせ敬神崇祖の念を培うための内容、第三学年では軍隊を取り上げて国防国家体制の確立に資する内容、第四~六学年では、天皇への忠義心や皇后の慈悲深さ、戦国武将を称賛する題材や国語の尊重と愛護、皇室ヘの至誠等の題材を取り上げて、国の為に勇猛果敢に戦う国民精神を涵養する内容で構成されていた。このように、「国語科」が担った役割は、天皇が統治する国の民という自覚を強固にさせ、国語を愛護し、国土を防衛・拡大していく精神をもった人間の養成であった。
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