「ベトナム高等教育改革アジェンダ2006-2020」によって一挙に肥大化したベトナムの私立学校の実態把握とそうした政策を推進した文教関係者へのインタビューを行って、社会主義国における有償の私立大学の在り方とその課題を明らかにすることが目的である。当該年度の研究課題は、私立大学の所有権問題とその収益の配分問題、および、明確な設置基準もなく飛躍的に拡大している私立大学の質保障問題への対応の分析であった。そのために、前年度関係が形成された元教育訓練省大臣、Nguyen Trai大学学長・民立大学協会副会長、Hoa Sen大学長などと積極的な研究情報の交流を行った。中央政府と地方政府の私立大学管轄権限と設置基準に関する細かい法令が大学の量的拡大の速度に対応しておらず、地域によって対応がまちまちであること、そのことによって教育の質においてさまざまな深刻な問題が生じていることが判明した。開設を謳い学生募集を行いながら、実態が存在しない大学から、企業と連携した巨大投資による大規模大学の開設計画まで、学生獲得は市場経済の一大競争事業となっている。 しかし、その内実は、「ベトナム高等教育改革アジェンダ2006-2020」が目標とした学生受入数を除き、大学の質確保、教育の質保障、教員の資格(修士号取得者、博士号取得者)などほとんどにおいて、達成目標にほど遠く、強力な質保障の制度が必要であることが明らかとなった。教育訓練省の大学評価基準は、欧米の大学評価モデルを援用したものでベトナムの現実とははるかに遠く、きわめて形式的なものとなっている一方で、歴史的伝統を有している私立大学が「不当な評価」(民立大学協会副会長談)を受けている現実も出現している。大学の質保障を「私立大学の自主性」を謳う政府がどこまでコントロールできるかが、今後の大きな課題である。
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