本研究の目的は、3年間で、住民の主体的な課題化学習の成立条件と当該フィールド「地域」における「個志向と集団志向の動態性を生み出す緊張力学」との連関構造を解明することである。1年目の平成22年度には、「理論研究」により地域概念モデルの再設計を試みた。そのモデル構成要素(要件)として、①「自然村的秩序」のもつ内発的エネルギー、②「中央」勢力圏に対する自立志向、③生活・生産圏の異心円的複合構造、④「個志向と集団志向の緊張力学」の備え、というこれまでの四点(平成19~20年度科学研究費による研究で検証済み)のみならず、これら四要素(要件)の基盤に⑤として「地域の生活価値・生産価値」及び「地域における合理的知」を不断に相対化する契機(上原專祿における「史心」精神)を醸成するエートスが存在することを加えた。平成23年度は下記の四つの実践事例における主体性形成の筋道・当該地域概念に即して同モデルの検証を行った結果、前記⑤も確認された。A 愛媛県宇和島市内の遊子漁業協同組合、B 長野県下伊那郡松川町の健康学習・教育実践、C 大阪府貝塚市内の地域福祉ネットワーク、D 奈良市富雄地区の安全・安心のまちづくり実践(Aは資料分析、B、C、Dはインタビュー調査及び資料分析)。平成24年度には、前記した四つの実践事例のすべてについて①~④の要素と密接に連動する要素として⑤が存在すること(すなわち⑤は四つの事例の中の農漁村ケースと都市住宅地ケースに共通する)、なかでも⑤のエートスの形成を促進する重要な契機として④が存在する(すなわち、④と⑤はとくに密接に連動している)ことを確認することができた。 以上の考察により、冒頭で既述した意味での「地域」概念モデルの構成要素として⑤を加え、この新たな地域概念モデルと主体的課題化学習の成立条件との連関を見出し得ることを確認した。
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