日本の学校教育は,特別支援教育の導入を契機として,インクルーシブ教育に大きくシフトした。だが,特別支援教育の理想を実現するために必要な人的,物的リソースは,その両面において未だ十分ではない。この理想と現実の狭間で障害を有する児童・生徒が関わった事故の発生リスク,そして事故に起因する訴訟リスクが急速に高まっている。そのリスクマネジメントの在り方を明らかにすることは,訴訟リスクの低減に向けた危機管理体制を確立し,特別支援教育の円滑な運営を可能にするために必要かつ不可欠なものといえ,学校経営上,喫緊の課題となっている。 研究最終年にあたる本年度は,法学,教育学,危機管理学等の分野を横断しつつ,特別支援教育(旧特殊教育を含む),学校安全に関わり,これまで抽出してきた「障害児に関わる学校事故」に関連する裁判例を俯瞰的に分析することを研究の中心とした。その結果,体罰に関わる事案の中に,特別支援教育の対象となる児童・生徒が被害者として顕在化する割合が一定数に上ることが明らかになった。 裁判例の分析を基に,小・中・高等学校並びに特別支援学校の学校長に対してヒアリングを実施したところ,体罰被害者としての特別な教育ニーズを有する児童・生徒という概念に対して,認識の程度に大きな格差が存在するという調査結果が得られた。学校教育における体罰問題に対する社会的批判が強くなる中,学校長が有するこの認識のギャップは,今後,特別支援教育の充実を進めていく上で問題を含むものと言えるであろう。
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