研究概要 |
2010年は総選挙による政権交代が予期されていたため,それがもたらす教育政策全体への影響と,本研究の課題として特に価値教育面での影響について検証することが,本年度の重要な課題であった.新政権においては教育関係省を再び教育省として改組したのであるが,2010年9月に教育省において学校教育担当者に対してインタビューを中心とした調査を行った.また,同省は教育白書『教えることの大切さ』を刊行し(2010年11月),それに基づいて新たな教育法案を議会に提出している(2011年1月).この教育改革の主眼となっているものは教員改革とカリキュラム改革,さらには学校における規律の改善などである.もともとシティズンシップ教育はブレア政権下で導入されたものであり,このキーワードについては保守党自体はそれほど重視してはいない.しかし,一方で,同政権においては,英国というアイデンティティに基づいた価値の共有によって社会的な紐帯を強めるという課題を掲げている.今年度は個人の研究,英国での実地調査,他の研究者との共同研究において,新政権における社会,多文化主義,価値教育,アイデンティティといった諸課題について明らかにすることを目的とした研究を行った. また,2010年11月19-20日にかけて,ロンドン大学IOEの年次研究大会「教育とシティズンシップ」に参加した.この大会への参加によって,現在シティズンシップ及びその教育という概念そのものが,国際政治を含めた非常に厳しいアイデンティティの対立のなかで解かれなければならないものとなっている理論状況が理解され,本研究の次のステップに向けた理論的課題が明らかになった.
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