研究概要 |
「シティズンシップ教育の政治的意義に関する日英比較研究:多元化社会と価値形成教育」を課題として3年間行ってきた一連の研究の最終段階において総括されたことは,英国における移民排斥主義や極右政党の台頭といった政治的な困難の本質は,表層で現れているような移民問題ではなく,人種如何を問わず貧困問題そのものであるということである.特に白人貧困層が,彼ら自身を政治から切り離された無力な存在,また社会的政治的関心から疎外された存在であると感じていることが,重大な社会的分断の契機となってきた.バーナード・クリックは,シティズンシップ教育の中心に置かれるべきものは政治教育であると主張してきた.それは人びと,とりわけ若者が社会への参加の方法とスキル,自らの主張を表明する手段とルートを回復させることにより,異なった立場の人びとに対する憎悪を解消し,健全な民主主義社会を再建しうるという考えである.本研究においては,この主張の正当性の現代的な意義を検証し,その可能性の一部を明らかにすることができた.
|