本研究の目的は、自治体財政難が公立博物館に及ぼす影響について、戦後の公立博物館成立期から現在、将来に至る長期的視野から分析を行い、地域の実情に応じた博物館運営の可能性を探ることである。最終年度に当たる平成24年度は、以下の内容を実施した。 1.大阪市における博物館政策の変遷とその要因について、現存の大阪市出資の博物館群を、(1)大正期に開園した天王寺動物園及び主に教育委員会が所管してきた博物館群、(2)市制百周年記念事業等を契機として首長部局でスタートした施設群、(3)府市共同出資による館、の3グループに分け、その沿革を市の総合計画や政策課題(人口と税収)、積極的公共投資の時代から行革路線への転換期に着目して整理し、第59回日本社会教育学会大会で口頭発表を行った。 2.博物館入館料の問題に焦点を当て、全日本博物館学会第38回研究大会において、「日本の博物館はなぜ無料でないのか?」の口頭発表を行った。戦後の法制化過程では、博物館・図書館ともに無料入館に対しては本来の利用者でない人々を排除することが意識されていたこと、図書館法には占領軍の意向で無料閲覧制が導入されたが、博物館法・図書館法とも制定時に日本人側から無料制による教育の機会均等の保障という考えが育つには至らなかったことを明らかにした。そして、英米では「博物館の無料化=社会階層間の格差の是正」が念頭にあるが、日本では所得による優遇策を設ける発想がなく、無料にする意味を認識できないのではないかと考察した。2.は、「身近な問いから考える-日本の博物館はなぜ無料でないのか?」のタイトルで、前平・渡邉編『学びのフィールドへ―生涯学習概論』(松籟社、2013年)の16章として刊行予定である。
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