研究課題/領域番号 |
22530895
|
研究機関 | 志學館大学 |
研究代表者 |
岩橋 恵子 志學館大学, 法学部, 教授 (70248649)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 教育学 / フランス / 社会教育関係職員 / アニマトゥール / 資格免状 / 訓練・養成 / 労働協定 |
研究概要 |
本研究の目的は、フランスのアニマトゥール(animateur 社会教育関係職員)の専門職性とアイデンティティの形成の今日的到達点を明らかにすることである。本年度は、以下の2点を研究の柱として課題に迫った。 1 昨年度分析したアニマトゥール職業資格(diplome professionnel)との関連を明らかにする視点から、アニマトゥールの非職業資格(diplome non-professionnel) の性格を、養成現場の調査および養成カリキュラムなどの分析を通して解明した。その要点は、①非職業資格は、職業資格免状に先んじて現場の実践の中から必然的に生まれてきたその歴史的性格から、職業アニマトゥールの根底を支えているものとなっている。②その「根底」をなす要素とは、自発性(volontaire)・闘士性(militantisme)を喚起し、積極的に社会参加する市民(engagement citoyen)の形成という点に主に見いだされる。その意味で非職業資格養成は、民衆教育の歴史を受け継ぐ要諦となっている。 2 アニマトゥール労働の意味の解明の視点から、1988年に2つの雇用者団体と5つの労働組合によって締結されたアニマシオン全国労働協定(convention collective nationale)の意味を分析した。その要点は、①アニマシオンの非営利職業部門としての社会的位置の確立 ②アニマトゥール労働の労働法典に基づく労働権の確立、③アニマシオン職業部門の特性の明確化をはかるためのアニマトゥール労働の質の向上とその保証ということである。これらの分析から、アニマシオン全国労働協定は、アニマトゥールの専門職性の構築とアイデンティティ形成への道を切り拓こうとしたものであったことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、フランスのアニマトゥールの専門職性とアイデンティティの形成の今日的到達点を明らかにするという研究目的遂行のための分析視角として、①養成(課程)における専門性、②職務遂行における自律性、③自治的職業団体の形成と身分保障の3つの要素を設定して研究を進めてきた。そしてそれぞれ次のような点の解明を図ることができた。 ① 近年のアニマトゥール職業資格免状改革の分析を通して、アニマトゥール労働の多様化・複雑化の中で職務内容の変化が求められ、それに伴ってコンピテンシー概念(単なる知識でなく行動に移すことのできる経験・能力の重視)の導入など能力再編が図られ、極めて広範かつ機能的な能力養成が進めらていることが明らかになった。他方、そのことによって、技術の訓練や細分化されたそれぞれの能力に完結されやすく、アニマトゥール労働の豊かさを希薄化させるリスクを負うという、変動期の社会教育関連労働に求めらている専門性のアンビバレントな構図も浮かび上がった。 ②アニマトゥール労働現場での聞き取り調査・考察を通して、地方公務制度におけるアニマシオン部門(filiere de l'animation)の創設(1997年)を契機に、市町村でのアニマトゥール採用が増加し、その職務が広がりをみせている実体とともに、アニマシオン・プロジェクトを策定しながらアニマトゥール集団で自律的に職務遂行する状況が生まれてきていることもまた明らかになった。 ③アニマトゥール労働組合・雇用者団体運動の歴史と現地調査によって、民間機関のアニマトゥールにおいては、労働協定を通して、労働組合の権利を含む労働権や身分保障、職業教育(養成)権などが確立されつつあり、アニマトゥールの専門職性の構築とアイデンティティ形成への道が形成される途上にあることを見いだすことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、アニマトゥールの専門職性について ①養成(課程)における専門性、②職務遂行における自律性、③自治的職業団体の形成と身分保障の3要素から迫り、以下の諸点を補足追究する。 ① アニマトゥールの職業資格免状・養成・研修の改革は進行中である。しかもその担当機関は、従来その中心を担ったアソシアシオンだけでなく、高等教育機関、地方公務員養成機関ときわめて複層的になってきている。これら三者の養成・研修課程の特徴の分析と関連構造の考察によって、アニマトゥールに求められている専門性の内実の全体的解明を図る。 ②近年アニマトゥールの採用を進めている地方自治体に焦点をあて、アニマトゥールの職務の実体および地域において果たす役割を調査分析することによって、研究課題をより緻密に検証する。調査対象としては、近年アニマシオン政策を大きく展開しているパリ郊外のモンフェルメイユ市(セーヌサンドニ県)と地方都市のボンパス市(ピレネ・オリエンタル県)を予定している。 ③民間のアニマトゥールが労働協定によってその専門職性が確立されつつあるが、近年急増している地方公務員アニマトゥールについては、その専門職性はどのような方向が目指されているのか。この点について、2012年の政権交代による学校改革を背景に今年から大きく変わろうとしているアニマトゥール政策の展開との関わりで解明を図る。 以上の結果を総合化し、アニマトゥールの専門職性とアイデンティティ形成の今日的到達点とその課題を成果報告として公表する。
|