研究課題/領域番号 |
22530905
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岡本 智周 筑波大学, 人間系, 准教授 (60318863)
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キーワード | 歴史教育 / 歴史教科書 / 博物館 / 語り口 / 社会化 / 沖縄 / 共生 / 共に生きる力 |
研究概要 |
本研究は、学校および社会教育において歴史が教育される際に採られる叙述の枠組み(語り口)に着目し、学習者のおかれる社会化段階に照らしてその効用を整理・分析するものである。2011年度は、前年度の取材と分析で得た知見について考察を深めることに主眼をおき、主として以下の2つの課題を設定して研究活動に取り組んだ。(1)「共生」概念を教育資源とすることの今日的意味を検討し、その意味に照らして、2007年の歴史教科書論争以降に展開された沖縄近現代史に関する教育的知識の特徴を検討する。(2)現在の学校および社会教育における沖縄史に関する情報の特徴を、20世紀後半以降の日本の歴史教育内容の変化に位置づけ、歴史教育が採用する語り口の変化を検討する。 (1)については、前年度の検討によって2008-09年の学習指導要領改訂で提唱されるようになった〈共に生きる力〉の理念的背景を把握したので、「共生」の含意と学校教育が前提とするナショナルな枠組みとの間の葛藤と止揚について、考察を深めた。(2)については、前年度の作業で確定した1980年代以降の歴史教科書内容のデータを用いて、沖縄史の何が表現され、またそれが「日本史」や「世界史」とどのように接続されているのか、そのレトリックの特徴を考察した。さらにそれを、沖縄で刊行されている教育教材や、関連する副教材、および沖縄県立博物館の歴史展示プログラムの特徴と比較検討した。 これらの検討作業の結果は、2011年7,月に刊行した共編著書『共生と希望の教育学』(筑波大学出版会)において発表した。その第3章「個人化社会で要請される〈共に生きる力〉」で(1)の成果を、第24章「沖縄史をめぐる教育的知識の展開」で(2)の成果をまとめた。また、(1)の課題に関連する論考として、『教育と文化』第64号に「後期近代と、教育資源としての共生概念」を発表した。(2)の課題における沖縄県立博物館の歴史展示プログラムの特徴についての検討結果は、次年度の著作に含める予定である。さらに2011年度には、「共生」概念の理解と教育経験との関連を社会意識の水準で検討した論考「共生社会意識とナショナリズムの構造」を『社会学年誌』第53号に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる教育媒体で採用される「沖縄の歴史」のバリエーションの把握、およびその特徴の整理・分析が順調に進行している。この歴史事象を一つの例としつつ、「ナショナルヒストリー」という叙述の枠組みの有効性と限界について考察を深めている。
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今後の研究の推進方策 |
社会的に要請される「共生」の含意と、学校教育が前提とするナショナルな枠組みとの間の葛藤と止揚について、考察を深める。最終年度の活動においては、これまでの諸々の研究成果をまとめ上げることを課題とする。
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