本研究は、学校および社会教育において歴史が教育される際に採られる叙述の枠組み(語り口)に着目し、学習者のおかれる社会化段階に照らしてその効用を整理・分析するものである。 研究の最終年度となる2012年度は、これまでの2年間の取材と分析で得た知見をまとめ上げることに主眼をおき、以下の2つの課題を設定して研究活動に取り組んだ。①現在の学校および社会教育における沖縄史に関する情報の特徴を、20世紀後半以降の日本の歴史教育内容の推移に位置づけ、異なる歴史教育行為が採用する語り口の相違とそれぞれの変化を検討する。②沖縄という歴史事象を一つの例としつつ、「ナショナルヒストリー」という歴史の語り口の有効性と限界について考察を深める。 ①については、前年度までの作業で確定した歴史教科書内容のデータを用いて、沖縄史の何が表現され、またそれが「日本史」や「世界史」とどのように接続されているのか、そのレトリックの特徴を考察した。さらにそれを、沖縄で刊行されている教育教材や関連する副教材、および沖縄県立博物館の歴史展示プログラムの特徴と比較検討した。 ②については、歴史教育プログラムへの追加取材を行いつつ、「ナショナルヒストリー」という語り口に規定される学校歴史教育が段階的社会化のいかなる部分に寄与し、いかなる部分でそうではないのかを、具体的な教育資源に沿って分析した。近年学習指導要領にも導入された「共生」の概念に照らし、その理念と学校歴史教育が前提としてきたナショナルな枠組みとの間にはどのような論理的葛藤があり、またそれを止揚する理路はいかに可能であるのかを探索した。 これらの検討作業からの成果は、その一部を2012年11月に刊行した共著書『学校教育と国民の形成』(学文社)において発表した。また、3年間に亘る本研究活動全体の成果を含めた著書『共生社会とナショナルヒストリー』を近刊の予定である。
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