我が国の大学マネジメントの現場では、具体の課題の解決にとりくむ職員の手により、実質的にはIR活動と見なしうる独自性の高い活動が、地道に展開されているのではないか。本研究では、この中核的仮説のもとでインテンシブなフィールド調査を実施し、我が国の大学の現場で多様なIR活動が進められている実態を明らかにした。 多様なIR活動の類型化と並行して実施した、IR活動の成果に関する分析を通じて浮かびがってきたのが、IR活動の発展的な次段階として展開される「改善(問題解決)プロジェクト」の重要性である。自ら主体的に業務改善に取り組む職員にとって、IR活動は目的ではなく、大学の発展を実現するためのマネジメントの一手段(あるいはプロセス)に過ぎない。IR活動の成果を受けて実施されるプロジェクト群こそ、大学マネジメントの実体といってよい。これらの研究成果の一部について社会に還元する取り組みとして、 2シリーズ(テーマは「動きはじめる大学」と「プロジェクトを通じて育つ大学職員」)計10回にわたり、大学役職員を対象とするセミナーを企画・実施した。 さらに踏み込んで、IR活動の直接延長上に実施されるプロジェクトの実態について調査・分析をはじめたところ、そこでのプロジェクトは、PMBOKに記述された国際標準とは異なる、我が国の独自性を強く反映したものとなっているのではないかという新たな仮説を着想した。例えば、精緻な事前の計画を正確に実行するというスタイルはとらず、非公式に始められた小さな取組みが予想外の成長をとげ、小さな実績の積み重ねの上にプロジェクトが形成されているケースが複数存在した。この知見をベースとして、2013年2月に、大学役職員を対象とするワークショップ「大学評価と物語構想を通じた業務革新」を企画・実施した
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