本研究の目的は、行政主導の「教職のメリトクラシー化」の動向と、それに対する教師の意識と行動を分析することによって、これまでの教員社会の中で構築されてきた教職という仕事の特徴や専門性に迫ると同時に、その変容の兆候について検討することである。平成22年度に、都立高校を中心に7名の教師にインタビュー調査を行った。インタビュー時間は、一人あたり1.5時間から3時間である。 現時点では東京都の主幹職選考の倍率が低迷していることからも、行政が意図する教職のメリトクラシー化や競争化は、少なくともベテラン教師たちの主観的現実レベルには浸透していないといえる。しかし、2009年度より主任制が導入され、多くの教師が主任職選考を受けて合格者と不合格者が分かれたことによって、また、ベテラン教師の大量退職期を迎えて、学校内の状況は変わってきており、若い世代の反応はより複雑である。また、学校組織のありようは次第にボトムアップ型からトップダウン型に変わりつつあるが、管理職の目標の掲げ方や教職員とのコミュニケーションプロセスは多様な側面を残している。そのような多様性が、教職のメリトクラシー化の展開のあり方にどのようなオプションを与え、教職員の意識や行動をどのように変えていくのかについて、分析を進めているところである。改革の進行に伴い刻々と状況が変化している現在、幅広い年代層と様々な職階に属する教師を対象に、継続的にインタビューを続けなければならない。
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