本研究では、第一に、学校はリスクを含めた社会の状況をどのように伝えているのか、カリキュラム編成の背後にある思想、多様な意見の取り扱い、カリキュラムを遂行する教師の認識と能力、といった問題に注目して、教職という仕事の社会的特質を検討する視座を提示した。第二に、日英両国における学校組織において、いかにカリキュラムが編成され、教師が教職という仕事をどのように遂行しているかを調査した。 研究代表者は 東京都を中心に教師に対するインタビュー調査を行ってきたが、2012年9月~2013年8月は、ロンドン大学を拠点に、イングランドの義務教育の最後の二年間で必修の「GCSE サイエンス」という科目のコースの一つ、「Twenty First Century Science」コースに準拠した教科書の変化に注目し、その第1版(2006年刊行)に独自に盛り込まれた「予防原則」(precautionary principle)とALARA(as low as reasonably achievable)に関する記述が、第2版(2011年刊行)から削除されるに至った背景を分析した。方法としては、教科書、ナショナルカリキュラム、GCSE教科規準、コース内容規定文書等の年度間比較分析とともに、この教科書の作成とプロデュースにかかわっているナフィールド財団と教科書執筆陣を中心とした教科書作成グループ、および、科学教育の専門家や科学を教える教師たち、総勢20名に対してインタビュー調査を実施した。 これにより、教職の仕事をカリキュラムとの関連で比較社会学的に検討するという分析枠組みの重要性を確認した。その上で、教職のメリトクラシー化、および教育の市場化といった動向が、教職という仕事と学校カリキュラムに対して、どのような影響を与えるのかを社会学的に検討した。
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