本研究は、国立大学の社会貢献に焦点化し、それを将来にわたって持続可能性なものとするために、大学の組織的な取り組み、地域社会の連携団体の関係、教員の社会貢献に対する能力形成を社会学的に分析することを目的としている。最終年度にあたる平成24年度は、以下3点を実施した。 (1)「理論研究」では、大学の高等教育組織論、新制度派社会学、教職能力論の文献を収集しつつ、大学の社会貢献プログラムの波及効果を説明する「制度化論」などを理論的に検討し、地域と大学の関係が多様であるにも関わらず、類似した大学・地域の連携組織が形成されるメカニズムを新制度論の観点から検討した。 (2)「実地研究」としては、広島大学を事例に、総合移転後20年を経た広島大学の社会連携推進機構、地域連携センター、産学連携センターについて資料収集とインタビュー調査を含むフィールドワークを実施し、連携の実際、制約条件に関わる情報収集を行った。具体的には、連携の体制づくり(包括協定)や連携のノウハウ、財政措置、人事交流などを伺った。これらの取材を通じて、大学と地域を繋ぐ活動が必ずしも十分に活性化されていないにもかかわらず、「組織フィールド」が形成されるメカニズムを明らかにした。 (3)大学教員の能力とキャリア形成に対するアンケート調査により、教育・研究活動、管理運営のなかで、社会貢献に関わる活動と能力形成が疎外されていること、また、大学の社会貢献事業の一環として社会人の大学院進学の動機に関する意識調査から、社会人院生のキャリアアップ志向が一般学生よりも強いことを明らかにした。知識基盤社会という課題に答えるためには、研究と教育へのウエイトが大きくなっている現在、多様な能力をもつ院生を指導できる大学教員の能力形成の機会を提供すること、社会貢献の制度化は教員の教育研究活動の自然な延長として考える道筋を明らかにした。
|