本研究の目的は、戦後占領期における私大の経営行動について、政府と進学者の動向をふまえつつ、個別私大レベルの分析を集積することで、その全体像を描こうとすることにあった。とくに戦時期・占領期を一体のものとして分析し、この時期の私大をとらえる新たな枠組みを作り上げることをめざした。今年度は、まず第1に戦時期から占領期にかけての個別大学データベースを完成させること、とくにこれまで未整備であった財務データについて整備すること、また第2に、私大の経営行動に大きな影響を与えると思われる政府(占領軍を含む)の政策、および進学者の動向の2点の実態をさらに解明すること、そして第3に、以上を踏まえて、 私大、政府、進学者の三者の関係についての総合的な検討を行い、占領期の私大の行動の特質と背景を明確にすることをおこなった。その結果として、①戦時期(とくに前期・中期)における私大の順調な経営とその背景にあった志願者バブル的状況の存在、②戦時期末期における政府統制の強化の限界と、私大へのさまざまな援助政策の存在、③敗戦後私大の財政難の実態、④そこにおける進学需要とそれをふまえての私大の量的拡大戦略、といった実態が明らかになった。そして、以上のような知見は、次のようなインプリケーションをもつと考えられる。第1に、戦時期の私大や社会の多面性があきらかになったことである。戦時期の私大には従来述べられてきた“統制”と“苦難”だけではとらえられない側面が存在していたことは間違いない。第2に、戦前期の政府と私大との関係について再検討の必要があることである。これまでの見方は政府による統制の側面を強調し過ぎ、また私大のパワーを軽視し過ぎていたのではないか。そして第3に、戦時期から戦後期を連続してみる視点の重要性である。大学を含めた高等教育機関の量的拡大はほぼこの2つの時期をまたがってほぼ間断なく進行したのである。
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