FDの義務化に伴い、大学教員の教育と研究の葛藤が大きな課題となっている。近年では、教育と研究の相乗効果を目指した研究が始まりつつあるが、具体的なカリキュラム、大学教授法、FDの内容に反映できるだけの十分な研究が蓄積されていない。本研究では、欧米で始められている実践的研究を踏まえて、日本の大学において有効な教育と研究の葛藤を超えるFDの理念と方策を明らかにすることを目指している。 平成20年度は、大学教員の教育と研究の葛藤に関する論点と用語の整理を行った。ハッティとマーシュなどによる先行研究をレビューし、教育と研究の間の関係の議論をまとめた。また、イギリスの高等教育アカデミー(Higher Education Academy)や国際学会における議論をまとめた。 さらに、大学生の学習と研究の葛藤に関する論点と用語の整理を行った。近年では、教育と研究の関係を静的に分析するのではなく、教育と研究の関連性を高めるための方策を明らかにしようとする実践的な研究が増えている。教育と研究の関連性を高めるための有効な方策の一つとして、学生の研究体験(Undergraduate Research)が注目されている。そこで本研究では、諸外国で行われている学士課程における学生の研究体験の動向と論点を整理した。具体的には、アメリカの学生研究体験協議会(Council on Undergraduate Research)とイギリスの高等教育アカデミーにおける議論、学生の研究体験をテーマとした国際学会における議論、さらに関連する先行文献を踏まえて、学生の研究体験の課題を、(1)なぜ学生の研究体験が重視されているか。(2)学生の研究体験はどのような活動なのか、(3)学生に研究体験をどのように提供できるのかの3点から整理した。
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