FDの義務化に伴い、大学教員の教育と研究の葛藤が大きな課題となっている。近年では、教育と研究の相乗効果を目指した研究が始まりつつあるが、具体的なカリキュラム、大学教授法、FDの内容に反映できるだけの十分な研究が蓄積されていない。本研究では、欧米で始められている実践的研究を踏まえて、日本の大学において有効な教育と研究の葛藤を超えるFDの理念と方策を明らかにすることを目指した。 イギリスの高等教育アカデミー、アメリカの学生研究体験協議会(Council on Undergraduate Research)とオーストラリアの高等教育学会(Higher Education Research and Development Society of Australasia)における議論を中心に分析した結果、以下のような知見が得られた。 第一に、近年では、教育と研究の関係を静的に分析するのではなく、教育と研究の関連性を高めるための方策を明らかにしようとする実践的な研究が増えている。第二に、教育と研究の関連性を高めるための有効な方策の一つとして、学生の研究体験(Undergraduate Research)が注目されている。第三に、学生の研究体験は、教育と研究の関係をより関連づける有効な方法として期待されている。第四に、学生の研究体験は、学習成果の向上、卒業率の上昇、大学院進学への促進などさまざまな効果が調査により検証されている。第五に、諸外国の大学において教育と研究の葛藤をどのように超えようとしているかの実態を明らかにした。第六に、大学教員の研究能力の資質向上と教育能力の資質向上を関連づける方法として、学生の研究体験の推進が有効であることが明らかにされた。
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