本研究の目的は、国際的な比較によって、(1)現代日本の大学生の留学志向を把握し、(2)留学志向の形成にいかなる要因(家庭要因、大学入学以前の教育環境や大学教育要因、キャリア志向要因等)が関与しているのかを解明することである。 今年度は中国の研究型総合大学一校でアンケート調査を行った。その調査結果を、本研究開始以前に既に日本で実施した調査結果と比較しながら、分析した。その結果、1)日中共に個人の留学志向には一定のグラデーション(積極層、浮動層、消極層)が存在すること、2)積極層、浮動層、消極層の比率には日中で差が見られ、特に日本の事例では浮動層が過半数を占めるのに対し、中国の事例では積極層が半数を占め、浮動層は4分の1であること、3)大学生の留学志向の形成に影響を与える要因には日中で共通点と相違点が見られること(共通点:外国語運用能力、大学教育要因が留学志向に影響を与える点、相違点:家庭要因の影響が中国では見られるが日本では見られない点)等が明らかになってきた。これらの研究成果を本報告書11.に記載した通り、論文や学会で発表した。 さらに上記の事例を、世界各国の大学生の留学動向の中に位置づける目的から、留学に関する世界各国データの整理を行った。日本国内の事例や先行研究の収集も継続的に行っている。 海外でのアンケート実施にあたっては、海外研究協力者と綿密に計画を練り、実施後は活発な意見交換に基づき分析した。2月には海外研究協力者の孔寒冰氏(中国、浙江大学)を招聘し、共同分析を進めるとともに、「中国の高等教育の発展過程と現状~留学生が送出される背景」と題する報告会を開催した。今年度後半には次年度に実施予定でのタイでのアンケート調査の準備を行った。 以上、最初に本研究の目的として述べた(1)(2)が徐々に明らかになってきており、順調に研究計画を遂行し成果を上げている。
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