本研究は、オーストラリア連邦政府における政権交代が先住民教育政策に及ぼした影響を実践的に分析することを目的としている。今年度は、研究一年目であり、歴史的な側面から、特に連邦政府における政権交代と先住民教育政策の関係性を分析した。 同国は自由党と労働党の二大政党が、連邦政府だけでなく、州政府の政権を交互に掌握している。この政権交代が、先住民教育政策に大きな影響を及ぼし始めたのは、1970年代に入ってからである。そもそも、この時期まで、学校教育は州政府の管轄とされ、連邦政府のそれに対する関与は極めて小さかった。連邦政府の政権を獲得した労働党政権は、社会民主主義の理念(機会の平等)を基盤として、財政面のみならず、様々な教育支援を先住民に対して実施した。この流れは、若干の変更はあるものの自由党政権へと移行しても、現在なお継続している。ただし、先住民コミュニティへの教育自治権や、先住民生徒の教育成果の問題は、政権が交代することに、その強調点は変化している。興味深いのは、先住民教育政策から政権交代を分析すると、その断絶性よりも、継続性をより見出すことができる点である。もちろん、政権交代による、小規模な政策再編は見受けられるが、むしろ、経済状況や社会の流れ、税に対する国民の意識が教育政策に及ぼす影響の方が大きいことが、歴史的変遷を分析することによって明確となった。 今後は、より具体的に、当時の自由党および労働党政権がオーストラリアの社会状況をいかに捉え、その理解を先住民教育政策にどのように活かしてきたかを分析したい。そして、その視点から、日本の先住民政策との比較分析を実施する。
|