研究課題/領域番号 |
22530930
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
北澤 毅 立教大学, 文学部, 教授 (10224958)
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研究分担者 |
有本 真紀 立教大学, 文学部, 教授 (10251597)
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キーワード | 教育学 / 社会学 / 歴史社会学 / 個性調査 / 学校的社会化 / 児童 / 教師 / 児童虐待 |
研究概要 |
本年度は研究実施計画にもとづき、1.「映像データ分析に基づく学校的社会化過程の実証的解明」2.「近代日本における「児童」概念の成立と変遷過程の解明」の2つのテーマへの接近を試みた。 まず、1.については、本研究の一貫として蓄積された映像データから分析を行い、その成果を第63回日本教育社会学会(お茶の水女子大学)において発表した。本発表では、学校的社会化の一諸相として、(1)入学間もない小学校1年生の給食場面において「できるかもしれないこと」を一律に「できない」ものとして扱う「白紙化実践」、(2)授業の終局場面において児童全員が必ずしも理解「できていないかもしれないこと」を「できたこと」にする児童と教師の共働実践を報告した。各共同研究者は「児童になるとはどういうことか」を共通の問題意識としてそれぞれの視点から論文化を進めており、本年度は4本が刊行された。また、本学卒業生の小学校教員との研究会を年2回(2011年7月、12月)実施し、現場の実践的関心をもとに本研究で得られた知見に対する意見交換を行った。加えて本年度は、現職教員と研究スタッフとの共著論文に着手し、教育実践と本研究の基盤である社会学的アプローチとの接合点が見出されつつある。 次に2.については、(1)これまでの調査で収集した明治期以降の小学校で編纂された「個性調査簿」の成立過程と教育実践における表簿の機能、および、(2)明治期の新聞記事を中心に「児童虐待」の成立と概念的変遷過程に関する調査結果を第63回日本教育社会学会(お茶の水女子大学)において発表した。さらに本年度は、茨城県(2010年5月~7月)と山形県(2010年9月)に加え、長野県飯田市内の小学校に明治期に編纂された各種調査簿が現存することを現地調査により確認した。一連の調査により、明治後期には統一された様式ではないものの、全国規模で児童一人一人の「個性」を把握するための表簿が作成されていたことが明らかとなった。収集した一次史料のデータベースは現在も作成途上にあるが、これまでの蓄積から児童の個人性を記録する表簿の成り立ちを解明し、論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の「研究の目的」には、(a)「映像データ分析に基づく学校的社会化過程の実証的解明」および(b)「近代日本における「児童」概念の成立と変遷過程の解明」の2つのテーマを設定した。まず(a)については、当初目的通り、これまで蓄積された映像データの分析に着手し、定期的に研究スタッフ内と現職教員との検討を重ね、第63回日本教育社会学会において成果報告を行うことができた。また、研究スタッフと現職教員との共同論文執筆にも着手することができた。(b)については、平成20年度より開始した関東圏及び地方所在の複数の公立小学校に所蔵されている明治期の児童に関する各種調査簿のデータベース化を進め、研究スタッフ内でのデータの共有化および分析に着手することができた。また、明治から大正にかけて「児童虐待」を報じた新聞記事の収集・分析にも着手し、明治期の児童に関する各種調査簿の分析とともに、第63回日本教育社会学会において成果報告を行うことができた。以上から本年度の「研究の目的」を順調に遂行することができたと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
「11.現在までの達成度」で述べたように、本研究課題はおおむね順調に進展している。研究テーマ(a)については今後も定期的に研究会を開催し、実証的研究の蓄積をはかる。研究テーマ(b)については、本年度の調査から長野県飯田市内の小学校に明治期の児童に関する各種調査簿が現存することが明らかとなったため、来年度以降も長野県飯田市周辺地域を中心とした史料収集を検討している。これら2つのテーマについては、第64回日本教育社会学会において成果報告を行う予定である。さらに今後は、学校的社会化の現状に関する研究の一貫として、児童(生徒)のいじめ自殺事件をめぐる教育現場および報道機関の対応に関する調査を進める予定である。尚、本調査については、本年度に予備調査に着手しており、今後も各種研究協力機関との連携をはかっていく方針である。
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