本年度は研究実施計画にもとづき、1.「現代における学校的社会化の実証的解明」2.「近代日本における『児童』概念の成立と変遷過程の解明」の2つのテーマへの接近を試みると同時に、3.研究成果報告書の作成を行った。 まず、1については、「学校的社会化」の現状を反映する問題のひとつとして、児童生徒の<いじめ自殺>をめぐる言説実践の実証研究を大津いじめ自殺事件を事例に試みた。本研究では、大津いじめ自殺事件を報じた新聞・雑誌・テレビ・インターネットなど各種メディア情報を継続的に収集し、本件の初期報道の特徴に関する実証研究を蓄積しつつある。また、現地におもむき報道関係者や学校関係者にインタビューを行い、現場の声の収集にも着手した。次に、2については、明治・大正期に「児童虐待」を報じた新聞記事の収集・分析を継続して行い、近代日本における「児童」概念の成立過程と意味変遷に関する論文化を行った。 以上の2つのテーマから蓄積された研究は、3.研究成果報告書にまとめられている。本報告書は、「第1部 学校的社会化の現在」「第2部 学校的社会化の歴史」「第3部 『いじめ問題』の解読」から構成されている。第1部では、小学校で収集した映像データの分析から学校的社会化の諸相を論じた実証研究が収録されている。第2部では、明治・大正期に記録された個性調査簿及び学籍簿等の史資料から、当時の教師・児童概念および教師による児童理解の実践を明らかにした実証研究が収録されている。第3部では、2012年に再燃した「いじめ問題」をメディアの言説実践と教育現場における生徒指導との関連性を明らかにする論稿が収録されている。本報告書は、学校的社会化の現状と歴史を包括する論文集であり、<子ども>(=児童生徒)をめぐる今日的な「理解観」の問い直しを目指す本研究の基礎をなす成果と位置づけることができる。
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