研究課題/領域番号 |
22530934
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研究機関 | 金沢星稜大学 |
研究代表者 |
井上 好人 金沢星稜大学, 人間科学部, 教授 (30319032)
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キーワード | 娯楽と身体表象 / マスメディア / 伝統の創造 / 校風改革運動 |
研究概要 |
・「粟崎遊園にみる娯楽と身体表象」について調査・考察した。石川県内灘町には、大正末期、平沢嘉太郎らが中心となって設立された同遊園は、浅野川電気鉄道の敷設にともなって、砂丘地に5万坪の敷地を有した「北陸の宝塚」とも称された施設である。海水浴のブームにも便乗した同施設の隆盛には、人々のどのような娯楽文化や身体表象の変容が伴っているのだろうか。 この問題に対して、『北國新聞』記事を題材に、「身体」をめぐる様々な言説が発せられ構成されていく過程や背景を、地方でも次第に形成されるようになった中産階級の人々のライフスタイルとの関係、学生(四高生、女学生、旧制中学生)たちの中産階級的価値観への同調、という観点からも、当時の文化政策の是非について検討を加えた。地元新聞社による時事記事や保健・薬品関係の広告をはじめ、自社の率先した社員旅行企画の記事などの無意図的な宣伝効果が影響していることが明らかになった。また、この余暇空間が社会的に人々の受け入れるところとなった理由として、競技スボーツの大衆化と軌を一にしている点があげられよう。すなわち、競技スポーツは、競技場やグラウンドのような場所があることによって、ひとつの風景として受容されてきたのと同様に、粟崎遊園のようなレジャー施設も学校や工場の空間からは排除されてしまうような雑然とした身体を、その衛生的で規格化された環境によって取り込み、各施設に配分し管理することで無害化する空間であったことが大きいと考えれるのである。 ・第四高等学校の「伝統の創造」問題について調査・考察を行った。E.ホブズボウム(1992)の議論、すなわち、「伝統」というものを、急激な社会変化を経験した集団による、アイデンティティを表明するための、あるいは社会的な結びつきを確保するための、作為的な政治過程として捉える視点、をヒントに、当時の四高の置かれていた社会的状況に照らしながら、学生間のヘゲモニー争いの内実に迫り、事実関係を紐解いていった。四高の校風改革運動は、明治三十年代後半以降に、学校を人格形成のための重要な場だと考えるようになった学生たちが、理想の学校生活の在り方を模索していく奮闘の過程であり、共同生活を営む寮や塾が、象徴的な場として論争の槍玉にあげられた所以が明らかになった。また、同時代が、教員をはじめ人々の学生へのまなざしが変化していこうとする時期であり、教師の側にも、学生との関係をどう取り結んでいくべきか、についての葛藤があり、従来とは異なるオルタナティブな「教師-生徒関係」が模索されていたことも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・大正末期からの女学生の身体を巡る言説を、北陸地域の政治経済、階層的なハビトゥスのせめぎ合いといった地域に特徴的な問題から捉え直す新たな試みが行えているである。幸い、石川県立第一高等女学校の同窓会雑誌の資料に、同校の課外活動の取り組みが詳しく書かれており、運動施設や新しい歓楽空間を女学生がどのように意識し意味づけしてきたのか、という視点からの考察が可能となった。また、第四高等学校の校友会活動について、従来の四高側の資料のみならず、第三高等学校校友会側の資料から新事実を明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
・地方における学歴エリート層の文化的エートスとその基盤の成立が、社会的ネットワークとどのように関しているのか、また、同層の子弟・子女教育の戦略が、彼らのネットワークや文化・趣味とどのように関連しているのか、について、回顧録などの質的資料を発掘しつつ分析を加えたい。そして統計資料だけでない当時の人々の主観的な意味世界を問うていきたい。 ・前年度までのデータ分析とあわせて、これら質的資料も合わせ、結果を総合的にまとめ、報告書を作成する。 ・電子化した資料類は関係都道府県や図書館に寄贈し、成果をフィードバックするように努力する。
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