賢治文学の教材化の史的展開とその意味、および賢治文学教材を活用した授業の傾向と問題点、可能性を明らかにしようとする本研究では、まずは教材や教材論、授業実践記録を収集し、そのうえで考察を進める必要がある。研究の初年度にあたる平成22年度は、基礎資料として、「暫定教科書」(文部省)が刊行された1946年以降の小学校・中学校・高等学校の国語科教科書に採録された賢治関係教材を収集し、その閲読・整理を行った。また、教材化の進展する背景を解明する準備として、戦前における賢治受容の様相を教育面以外にも着目して検討した。戦前の賢治受容に関しても、特に文学や文化面での受容に力点を置いて調査を行った。 その結果、いずれの校種においても戦後初期には人生論的テーマの作品の教材化が多く、1970年代の後半から独特の表現や構成が注目される作品の教材化が進んでいるといった傾向が確認できた。また、中学校の国語科教科書では1940年代後半から1950年代には数多くの賢治作品が教材化されて掲載されているものの、その後は掲載数が減少していることも確認できた。賢治受容の調査・検討では、戦中に作品の普及が進んでいること、演劇化・映画化が普及に大きな役割を果たしていること、朗読運動とも関わりがあること、戦後は演劇面での受容が飛躍的に進展していることなどが明らかになった。 これらの成果のうち、賢治受容の多面的展開に関する調査・検討の報告は、天沢退二郎・金子務・鈴木貞美編『宮澤賢治イーハトヴ学辞典』(2010年12月 弘文堂)に発表した。それは、今後の研究の中で教材化の意味、特にその背景を考察する際に役立つ内容であるといえよう。また、宮沢賢治研究においても、今までにない調査資料として意味をもつものと考えられる。この成果を次年度の研究に生かす予定である。
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