研究課題/領域番号 |
22530943
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
中地 文 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (70207819)
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キーワード | 教育学 / 国語科教育 / 宮沢賢治 / 文学教材 / 受容史 |
研究概要 |
本研究の目的は、第一に小学校・中学校・高等学校の国語科における宮沢賢治の文学の教材化およびその授業実践の史的展開の意味を究明することであり、第二に教材/学習材としての賢治文学の特徴と可能性を探ることである。これらの目的を達成するためには、まず関係する教材や教材論、授業実践記録等の資料を網羅的に収集し、分類・整理する必要がある。そして、それらの資料を閲読・分析し、浮かび上がってくる傾向・特徴の意味を考察する必要がある。三年計画の研究の二年目にあたる平成23年度は、昨年に引き続き資料収集・整理・分析を行ったが、特に教材論の収集とその閲読・分析に力を注いだ。また、各教材論に示された教材観や解釈の特徴を的確に把握するために、繰り返し教材化されている作品の研究も行った。 進行途上の作業が多い中で、研究成果をまとめることができたのは童話「雪渡り」の作品研究である。小学校五年または六年生の教材として1970年代後半から国語科教科書に採録されてきたこの作品は、元来どのようなねらいで創作されたものなのか、童話としてどのような特徴を持つのか解明した。執筆時期を絞り込むことができたこと、大正期の宗教教育の展開と宮沢賢治による「法華文学」の主張との関わりが指摘できたこと、迷信の否定が描かれたことの意味について新たな解釈が提示できたこと等は、宮沢賢治研究の進展に益する成果といってよいだろう。さらに、教材としての「雪渡り」を考える上でも、書き手が内容や表現を工夫した点が把握でき、物語の主題も確認できたことは、意義のある成果と認められる。 成果報告として論文化していないが、「雪渡り」以外にも、長期にわたって小学校の国語科教科書に掲載されてきた「やまなし」の作品研究を行い、教材論の分析も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度の後半には、既存の国語関係教材データベースのあり方を調査して、仮称「宮沢賢治関係教材(教材、教材論、授業実践記録)データベース」の枠組みの検討を行い、必要なデータの整理・入力まで進める予定であったが、年度の前半に行う予定だった資料収集とその整理が遅れたため、データベースの作成に向けた作業を予定通りに進めることはできなかった。年度前半の作業が遅れたのは、いずれも東日本大震災に起因する次の三つの理由による。(1)4月中は自宅周辺の鉄道が不通で資料収集ができなかった。(2)年度当初は、大学図書館の閉館が続き、資料を活用することができなかった。(3)学期の開始が一カ月遅れたことにより、夏季休業の期間が一カ月短縮され、前期は研究に専念する時間があまりとれなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年に十分に進めることのできなかった「宮沢賢治関係教材(教材、教材論、授業実践記録)データベース」の作成に力を注ぐことにするが、国語科教育の観点からの有用性を考えてデータベースの枠組みを構築する。また、国語科教育の分野はもとより、文学研究の分野にも目配りして研究の進展状況を十分に確認し、必要な作業を厳選する。
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