1、小学校・中学校・高等学校の国語科における宮沢賢治の文学の教材化の史的展開の調査については、国会図書館にて最初期の教材の見直しを行った。その結果、これまで昭和21年11月に発行された暫定教科書『初等科国語 四』への「どんぐりと山ねこ」(題名は教科書通り)掲載が賢治作品の教科書搭載の最初であるとされてきたが、昭和18年7月発行の満州開拓青年義勇隊訓練本部編『国語 下の巻』に「雨ニモマケズ」が掲載されていることが判明した。 2、戦後初期の国語科教育における賢治文学の教材化については、暫定教科書および第六期国語科教科書への採録を実際に進めたのは石森延男であるが、教科書編纂委員だった谷川徹三の影響力が大きかったとみられることを、当時の文献をもとに明らかにした。また、文部省で小学校の教科書編集を実際に担当した人々は、「在来の日本童話のように、勧善懲悪とか、因果応報等の道徳思想がはっきりしていない」「非常な自由さを持ち想像の奔放な」(文部省嘱託 志波末吉、久米井束『表現を育てる新読本指導書 第四学年(下)』)作品として「どんぐりと山猫」を捉えていたことを明らかにした。これらの成果は、日本近代文学会東北支部 平成二四年度夏季大会(平成24年7月7日)にて、「戦後初期国語科教育と宮沢賢治」の題で発表した。 3、宮沢賢治関係教材(教材論・授業実践記録も含む)のデータベース作成については、現職教員から意見をもらった。公開に向けて今後手直しを進めていく予定である。 4、教材化の思想を含めた賢治文学の受容史の考察に関しては、『東北近代文学事典』(勉誠出版)に「宮沢賢治をめぐる人々」の題で成果をまとめた。同書は本年5月下旬に刊行される予定である。 5、教材/学習材としての賢治文学の可能性をめぐっては、伝記教材の比較読みの有効性等を現職教員と討議した。中学校における授業実践に反映させていくことになっている。
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