研究概要 |
平成22年度研究計画は,主にシンガポール社会科・地理シラバス・教科書におけるナショナルシティズンシップ育成の側面に焦点を当て,それらを究明していくことであった。主な結果は,次の3つである。 (1)シンガポール小学校社会科2006年版シラバスそして教科書・スキームオブワークでは,コア部で批判性・民主性は不鮮明となるが,道徳性・多様性・公益性を軸にナショナルシティズンシップ育成を中心にした多重なシティズンシップ育成を構成原理にしている。(2)シンガポール中学校低学年地理シラバス2006年版では,国家的課題に繋がる学習内容の構成,単元最後のシンガポールの事例学習や,態度形成に結び付く探究過程から価値判断過程への組み込み,価値態度項目での国民教育に関連付くシンボル的な語句との繋がりなどから,組織的にナショナルシティズンシップ育成が意図され,生徒の愛国心が高められる地理教育の意味が増してきている。(3)米英地理カリキュラムは,明確に整理された系統性や魅力的な観点を備え,我が国の地理的基本概念や探究過程を整理・検討する上で参考になる。これら(1)~(3)より,シンガポール小学校・中学校低学年地理シラバスが,地理の系統性というよりも,「国民教育」を土台にしたナショナルシティズンシップ育成を基軸にしていることが判明し,さらに我が国も含めたアジア諸国と米英地理カリキュラムの共通性を追究することなどが課題として残った。
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