平成25年度研究は,主に中国地理カリキュラムの検討を中心に進めたが,これまでの研究結果から,香港とシンガポールの地理カリキュラムにイギリスの影響が窺えるため,イギリス地理カリキュラムの吟味も含め,大局的に東アジア華人系の地理カリキュラムの特徴について検討を進めた。主な結果であるが,中国地理カリキュラムは現行2011年版と前の実験稿2001年版があり,両者の内容構成や方法的な特徴は概ね同様であった。それらには,我が国の中学校地理的分野の内容構成の仕方に近い特徴もみらえた。他方で,中国と香港には,国際地理学連合地理教育委員会による「持続発展」「地理的探究」などの国際的な方向性の影響がみられた。また理念的な部分では,シンガポールも含め,国際的な背景を踏まえた国家への関心や在り方が重視されていた。この点の明確さは,華人系アジア型の特徴としてみなせる。香港地理カリキュラムでは,イギリスの影響とみられるが,「地理的基本概念」がカリキュラム構造上に上手く組み込まれた。ただし運用面で明確とはいえず,カリキュラム構造上の変化の途中ともみられる。このような香港の「地理的基本概念」のカリキュラム構造上の組み込みは,地誌的な学習を基盤とする中国や日本において,ほとんど読み取れないため,今後,「資質・能力」を重視する21世紀型学力観に立つと,東・東南アジア諸国の地理カリキュラムへの波及が予想される。
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