研究概要 |
本研究の目的は、家族・家庭を主体的につくる資質と能力を育むシティズンシップ教育の言語活動と実践構図を解明することである。今年度の研究成果として、理論研究が進んだことがあげられる。家族や家庭をつくる資質と能力をシティズンシップ教育に位置づけることを試みた。まず、若者が抱える困難とシティズンシップについてジョーンズとウォーレス(1992)の研究を検討した。つぎに政治思想研究者である岡野八代のシティズンシップ論(2009)を補助線としてジョーンズらが指摘したシティズンシップ概念の拡張について考察した。岡野は、「私」と「公」に境界線を引き,私的領域と,シティズンが活動する場が公的領域を峻別してきたことに問題が孕まれていると指摘する。岡野によれば、これまでのシティズンシップ論は,たとえば,「子どもたちに心配りを払う母親の必要性」と「自立したシティズンという価値」が対となって構造化されている。このような「私」と「公」が対となって構造化されるシティズンシップ論においては,自立したシティズンは,一定のものたち(例えば母親たち)を二級市民へと囲い込み続けると批判した。つまり,これまでのシティズンシップ論は、具体的な市民一人ひとりに対する応答ではなく,一般的な原理・規則の遵守が強調され,具体的な他者に対する無関心が醸成されてしまう。岡野は,責任はつねに関係性の中でこそ新しく生まれてくるのであるから,ヴァルネラブルな者をケアする責任を社会の中で分有し,ケアが必要な者が放置されない仕組みが必要であると論じている。本研究の意義は、これらをふまえた家庭科の「家族」の授業がシティズンシップ教育として構想されることを明らかにしたことにある。 他方、小学校の食教育、中学校の幼児の会話を用いた保育の授業における教師の言語活動をディスコース分析し、教師が生徒との関係においてどのような立ち位置で授業を作っているかを解明した。
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