本研究では、子どもや若者が自分の家族や家庭を主体的につくる資質と能力を育むシティズンシップ教育の言語活動と実践構図を解明した。英国のシティズンシップ教育論や日本の子どもや若者が抱える困難の先行研究を検討し、目指すべきシティズンシップを「ケアが必要な者が放置されない仕組みを探求する新しい社会性」と定義し、「市民」を「シティズンシップを享受し、政治参加の権利あるいは義務を持つ者」とした。 研究対象は、小学校、中学校、高等学校における家庭科の家族・家庭の授業である。研究方法は、授業における言語活動をすべて文字に起こし、教師がどのようなポジショナリティ(立ち位置)を採っているかディスコース分析した。 結論として、家族・家庭のシティズンシップ教育の授業には、子どもが自分の生活から、たどたどしいことばでも安心して発話できることや排除されない仕組みが求められる。教師の役割は、授業のフレームワークを構成することであり、刻々と変化する子どもの学びを見取り、授業のフレームワークを再構成することである。特に重要なことは、子どもの参加を重視することであった。子どもが声を出すとそれが他の子どもの声を引き出した。こうして同世代が影響を与えあいながら、子どもたちは、私的で個人的な家族や家庭を見直し、これからつくる家族や家庭に対する選択肢を広げ、家族や家庭を社会的・公的な人や制度と関連して考えられるようになった。シティズンシップ教育における教師の役割は、私的で個人的な問題を公的で社会的な課題と結びつけるディスコースを作り出すことである。そのためには、教師の権力性を自覚し、コントロールしていくことであった。子どもが受け止められたと感じる聞きあう公共的な空間をつくるために、教師は、「活動の指示」「質問」「再話」など子どもの発話に対して、13項目のポジショナリティをとっていた。
|