本研究の目的は、中学校国語科書写教育において、書字過程に着目した行書教材および行書の授業を開発することである。そのために、平成22年度は、中学校国語科教諭を目指す学生や中学生の行書の書き方(書字動作)の問題点を明らかにするために、硬筆書字・毛筆書字の実態分析を行った。どんな筆脈(点画と点画との空中での見えないつながり)で書き、どんな運筆リズムで書いたかを、ビデオで撮影したり自分の書いた行書に筆脈を書き込ませたりして調査した。また、どこに筆圧をかけて書いたかを、カーボン紙を用いて調査した(硬筆のみ)。 行書学習において学習者は、行書を次の三段階を経て書けるようになることが明らかになっている(樋口「大学の教員養成における行書指導法の授業改善」2009)。すなわち、全く書けない段階から、筆脈・筆圧はあまり理解できていないが形を真似することができている段階、筆脈・筆圧・運筆リズムを習得して整った行書が書けるようになる段階である。従来の行書指導では、筆脈・筆圧はあまり理解できていないが形を真似できている段階に対応した指導がなされておらず、この段階で指導が終了してしまうため、日常生活で行書を使いこなすまで指導を徹底することができなかった。本年度の分析作業によって、具体的な筆使いの問題が明らかになり、問題のパターン毎に具体的な改善法を提示するための基礎データを収集することができた。また、従来注目されることのなかった、筆管(筆を持つ部分)の傾きや、筆が紙面から離れたときの動きのデータも収集できた。
|