本年度は、昨年度に作成した行書動画教材(毛筆・硬筆)と、問題のある行書の書き方が一覧できる資料集をさらに改善するため、教員養成課程の学生を対象に中学校での授業展開を想定した授業を行い、授業の効果についてまとめた。また、現職教員対象の研修会や講演会でも資料を取り上げて説明し、広く意見を求め、それらを反映させてより効果的な教材にした。今後研究成果をさらに広めるため、改訂作業中の中学校の教科書・指導書およびDVDやデジタル教科書に反映させる予定である。 行書基準文字(いわゆる手本)の字形や運筆も、研究成果を反映して、中学生が学習しやすい行書形を追究して書いた。本年度は、仙台市書き初め展硬筆手本や、高等学校芸術科書道免許取得のための大学生用テキストにおいて、硬筆行書教材を、書写と書道の接続がはかりやすい、研究を踏まえた字形と運筆で書いた。 研究を進めていくうちに、行書指導によって筆圧のかけ方と筆脈が合理的な動きになっていくと、楷書を書くときも、行書と関連させて指導することによって、筆圧のかけ方と筆脈が速書きに適した合理的な動きになっていくことがわかってきた。逆に、小学校段階で速書きに適した運筆リズムを身につけると、中学校でスムーズに行書学習にはいれるのではないかという仮説が成り立つ。本年度は、小学校での速書きに適した運筆研究も行い、学会で発表した。 さらに、第27回全国大学書写書道教育学会シンポジウムにおけるラウンドテーブルでは、「テーブル② 書写の内容論」を担当したが、世話人の話題提供として、研究成果を盛り込んだ資料を用意した。会場で寄せられた貴重な意見をふまえて、硬筆指導における筆圧と筆脈に着目した書字過程の研究の重要性についてまとめた提言は、学会誌に掲載された。
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