中国の初等教科「品徳と社会」にみる公民性教育について、教科書、教師用指導書、実際の授業を対象として、検討した。儒学の思想と民主主義の考え方のジレンマ、例えば、親、兄弟を大切にすると言う道徳と、いかなる人も公平に扱うという民主主義の原則との間のジレンマは、東アジアに共通するジレンマであり、中国と日本の公民性教育を比較する上で重要な論点の一つであることが明らかとなった。また、欧米のアクティブシティズンシップ教育の影響を両国共に受けて、参加型の学習方法が強調されていることも共通点であった。「品徳と社会」の教科書の編集責任者でもある中国中央教育科学研究所孫智昌氏へのインタビューも実施し、今後の共同研究について打ち合わせを行った。 欧米のシティズンシップ教育の分析としては、アイルランドの高校新教科「政治と社会」のシラバスの分析を行った。 また、パフォーマンス課題を設定した逆向き設計の授業研究を小学校6年生の歴史学習で実施した。「幸福」という概念を社会的な判断の基準として、浅井三姉妹という歴史的な人物の生き方に迫る学習を展開した授業について分析を行った。また、「公正」や「正義」という概念を基盤として、知的障害者福祉の父と言われる糸賀一雄と彼の業績を振り返る教材の開発を行った。 また、東アジアの社会問題の教材化としては、東南アジアから日本が大量に輸入しているエビの水産加工場で児童労働が摘発された事実に関する予備的な調査を行った。具体的にはタイの水産加工場にミャンマーやカンボジアからの移民の子どもが働いていることを摘発する国際機関の文書を検討し、関係者への聞き取りを行った。
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