日本の学校教育のおける音楽教育では、音楽で心をつなぐといった精神面での充実が教育の基盤にあると考えられる。その中にあって、合唱教育では、声の技術的な発声訓練や指導が重視されがちであるが、児童・生徒の心身を開放し、柔軟性のある声の育成のためには、呼吸法やリラックス法を重視したウオーミングアップの検討が重要である。本研究は、上記発声法を児童・生徒に習得させる一環として、心技体のバランスのとれた合唱指導法について検討することを目的とする。平成22年度は、この目的のために国内外の学校教育機関の合唱活動の視察を実施した。国内視察としては、コダーイワークショップへの参加、合唱活動の盛んな小学校の音楽授業の視察、国外視察としては、フィンランドのエスポー音楽学校の訪問がある。エスポー音楽学校では、タピオラ合唱団、エモアンサンブルを中心に、合唱指導法を視察し、指導者へのインタビューを行った。その結果、合唱教育の根幹である和声感の育成のためには、音程練習を合唱練習に取り入れた合唱ソルフェージュを導入すべきであること、音楽授業での音程練習法の開発が必要であるといった知見が得られた。また、フィンランドのタピオラ合唱団での合唱指揮者へのインタビューとウオーミングアップの視察を通して、児童・生徒の声を育成するためには心身のリラックスを取り入れた呼吸法や発声練習が重要であるという見方は間違っていないことを再確認することができた。その他、新たな知見として、フィンランドでは、合唱教育と器楽教育が密接に関連付けられており、このような教育システムは、音楽力の向上の点でも相乗効果を上げ得ることが分かった。翻って日本の音楽教育の現状を見ると、合唱教育と器楽教育の連携について、抜本的な検討が必要であると思われる。
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