本研究は,紀元前からの情報機器を対象として,それらを復元することにより中学校や高等学校の技術・情報教育へ寄与することを考慮して,紀元前から今日に至る情報機器の調査ならびに3次元プリンタでの復元を行い,未来志向型技術・情報教育教材を開発することを目指した。 これまでは,欧州を中心として計算具の改良の視点から中世の時代の機械式計算機等を調査し,また中国での南通市そろばん博物館等でのそろばんの調査を行った。これらに引き続き,今年度は中国安徽省黄山市にある程大位珠算博物館や山西省晋中地区の普商渠家等を調査し,中国における計算機器変遷についてさらに調査した。程大位は明代の数学者であり,その著書は「算法統宗」と「算法算要」に代表される。訪問した程大位珠算博物館は文献の保存とともに,各種そろばんが展示されている。特に注目すべきは,これまで中南米のキープと沖縄県の藁算として結縄文字での記録媒体が保存されているが,程大位珠算博物館にも藁算が展示されており,日本(琉球)と中国が藁算で交流があった証拠が明らかになったことである。さらには,計算表を記載し,上側の大理石の薄い板に窓枠を開けて計算結果の数字が見えるようにしてある乗除算用計算具も展示されており,英国におけるネイピア棒の九九表やドイツのシッカードの計算機とも発想に共通点があり,そろばん以外の計算具の発達も確認できた。一方,中国山西省晋中地区の山西祁県渠家大院(晋商文化博物館)は長大なそろばんも展示されており,商業での計算の発達も確認できた。 これらの計算機器の変遷の調査とともに,3次元プリンタでそろばん等の造形を行い,技術・情報教育で利用できる未来志向型3次元教材も開発した。さらには,情報教育の中での情報技術教育ならびに情報倫理教育との関連性も考察し,技術・情報教育の教材利用の位置付けについても考察した。
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