研究概要 |
本研究の目的は,以下の2点である。 1)フランスの教育制度の中でその意義が近年大きく変化した義務教育課程で求められる国語リテラシーの具体像を明らかにする 2)リテラシー養成のために,どのような教材が,いかに動員されているかを調査するこれら2点について昨年度の研究成果を報告する。 1)義務教育課程の最終段階,つまりコレージュ最終学年の学年末に実施されている,前期中等教育修了認定試験(以下,「ブルヴェ試験」)で出題された問題について,実施要項および過去10年間に出題された問題を分析した。さらに,日本の公立高校の入試問題と比較・検討した。その結果,日本の高校入試と比較して,フランスでは解答時間が長い(約3時間)にもかかわらず,出題される文章の量がきわめて少ないこと(2~30行の文章が一文),行政側は問題文の多様化を教育現場に促しているにもかかわらず,問題文に占める文学作品(小説,フィクション,詩)の重要性が一貫して圧倒的に大きいこと,説明文,評論文は全く出題されないことなどが明らかになった。また,問題も,登場人物の心理を選択肢の中から選ばせる問題が多い日本の高校入試とは対照的に,フランスでは文章の構造,使われている比喩表現の体系性,話者と物語世界との関係など,日本では大学でようやく取り扱うような問題も頻繁に出題されていることが明らかになった。以上のことから,多くの文章の大意を短時間でつかむことが,日本型の国語リテラシーとするなら,短い文章を,その構造にまで踏み込んで読み込むことがフランス型のリテラシーであると考えることが許されよう。 2)従来の方針に基づき,コレージュの教科書の体系的な収集を継続して行っている。23年度は,小学校の教科書の収集も行う予定である。
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