本研究の目的は、旭川地域に伝わるアイヌ音楽の文化的な価値を、地元の小・中学生に理解してもらうために、アイヌ歌謡を、伝統的な歌唱法を踏まえながら、音楽科表現活動の教材として開発してゆくことにある。 平成22年度は、北海道の各地に残るアイヌの歌謡の特徴を調べる為、道立図書館に残る様々な歌謡の記録を調査した。特に道立図書館には、久保寺逸彦が昭和10年頃に収集した貴重な録音が残されており、研究の前半は、それらの録音を聴きながら、北海道のアイヌ歌謡全般にわたる特微を探った。しかしながら、各地で歌謡並びに歌唱法は、特徴が微妙に異なっているため、今年度は大学の所在する旭川近文地区に伝わるアイヌ歌謡に焦点を絞り、その特徴について探ることとした。 また、アイヌ歌謡の研究者として重要な論文を執筆している、千葉伸彦氏を招き、特に阿寒方面のアイヌ歌謡の特徴についての講演をお願いした。その講演内容から、阿寒と旭川近文においても歌唱法の違いが確認され、歌唱についての美意識の違いも存在することが明らかとなった。 これらの研究と並行して、故杉村キナラブック(アイヌ歌謡の名手であり、録音がアイヌ民族文化研究センターに多く残されている)の娘である杉村フサ氏より、アイヌ歌謡の特徴を直接ご指導いただいた。指導のなかで、アイヌ歌謡の特徴が、音程へのこだわりよりも、よりリズムが重要な意味を持ち、旋律は口承伝承されてゆく中で、常に変化してゆくこと。また、平易な旋律の中に、細かなコブシが盛り込まれていること。さらに、音質の特徴は、自然の描写、動物の鳴き声の模倣などがその基調となっていることが明らかになってきた。23年度は、このことについて論文にしてゆく予定である。
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