本研究は、英国の初等・中等学校における人格・価値教育の実施状況を、<市民性><社会性><宗教性>というキーワードによって考察するものである。英国の学校においてはシティズンシップ教育、PSHE(Personal Social Health Education)、宗教教育が、それぞれ独自性と共通性を持ちつつ展開されているが、それらがどのような政策と指針によって示され、また実際の学校において、教師たちによってどのように翻訳され、実践されているかを、三者の連携という観点から解明するものである。研究初年度の平成22年5月に英国において行われた総選挙により政権が交代したので、新政権下の、それまでの教育政策との異同について、文献情報による情報収集とともに、実地調査において確認を行った。実地調査では、平成22年12月に英国に出張し、大学の学術研究者へのインタビュー4件、大学での価値教育に関するセミナー参加による専門家との意見交換1回、初等学校での授業観察および校長へのインタビュー2校、中等学校での授業観察および教員へのインタビュー1校を行った。新政権下における新しい教育政策の方向性は、まだ確定したものではないが、それに対する研究者や実践者の受け止め方を詳しく調査することができた。また、学校の実践現場においては、政策の新旧にかかわりなく、継続的に実践されているものや直面している課題についても確認することができた。本研究のメンバーは、比較教育を専門とするものと教科教育・授業研究を専門とするもので構成されており、マクロの視点とミクロの視点を融合させてテーマに切り込むところに特徴があるが、このことのメリットが今回の調査でも生かされた。
|