教師と子ども間の演劇的コミュニケーションの意義を探るために、幼稚園と小学校においてフィールドワークを行い、教師-子ども間の儀礼的コミュニケーションを抽出して分類し、習熟する過程における子どもたちの活動の変化を考察した。研究はまだ途中であるが、現段階においてフィールド対象校のクラスにおいて次のことが確認されている。 1)小学校の授業において、子どもたちが教師の役割を分有するような定型化された儀礼的発話パターン(「それを私が説明します」、「意見を言ってもいいですか」-「はい」等)を習得し、その習熟度が増すと、一般には教師が主導する-斉的な教授-学習活動においても、子どもたちが活動を主導する授業展開が可能になる。 2)3学期のクラス全員で行う演劇活動は、子どもたちのノリの共有が深められるに従って、パフォーマンスが向上している。このノリの共有の土台を作っているのは、日常の授業における儀礼的コミュニケーションと考えられる。これが意味するのは、物語の意味理解が個人の言語理解によるものではなく、ノリの共有による集団的な理解だということである。 3)幼稚園における一斉活動場面(朝の集会や帰りの集会)は一般には教師の主導性が強い場面だが、<うた>や<かたり>などの演劇的あるいは儀礼的で定型的な表現がその場と結びついた形で習得されていくと、教師の主導性を子どもたちが分有し、子どもたちによって一斉活動が開始され、子どもたちの主導性が次第に増加して行く可能性がある。
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