本研究の目的は、次の三点である。(1) アメリカでの先進事例に学びつつ、日本型の多文化音楽教育の教育内容を構築し、教師が活用できる教材を試行的に開発する。(2)プンムルとサムルノリは韓国の打楽器アンサンブルであり、在日コリアンにとっても自らのアイデンティティに直結する音楽である。この音楽に子どもたちが接することの教育的意味を明らかにする。(3)プンムルとサムルノリを用いた授業実践の教育内容を明らかにするために、それらの音楽が在日コリアンによってどのように伝承されているのかについて、在日コリアンの祭りおける参与観察及び、在日コリアンの音楽教師や演奏家に聞き取り調査を行う。 以上の三つの目的に従って研究を進めた結果、次の三点が明らかとなった。 第一は、近年の米国の多文化音楽教育において、音楽の歴史や伝統だけはなく、現代の人々の暮らしにおける音楽の意味についても、学習内容として取り入れなければならないことが主張されていることである。第二は、在日コリアンにとって、プンムルやサムルノリを演奏することが、在日コリアンであることについて他者から承認を得るための方法の一つであるということ。そして、そのことは、肯定的アイデンティティを形成するために意味があることである。第三は、在日コリアン集住地域の祭りでプンムルやサムルノリを演じることが、その地域の在日コリアンの存在を明らかにするのと同時に、多文化共生のイメージを明らかにできることである。 上述した第二と第三の内容は、プンムルとサムルノリによる、在日コリアンを対象とした多文化音楽教育の学習内容として用いることができる。その際、クッコリ、ヒモリといった韓国のリズムをチャンゴという打楽器で演奏する活動を行う。この活動は、初心者の学習者にとっては適切である。
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